僕は二駅しか進めない【与志田パドマ】

三陸鉄道に乗って宮古駅から北へ向かうと、「山口団地」→「一の渡」→「佐羽根」→「田老」→「摂待」と続き、岩泉町へと入っていきます。

「さんてつ」は電車ではなく、ディーゼル機関車です。どこか懐かしいその走行ぶりには、「汽車」という呼び方がよく似合います。

山と海とトンネル、ときどき人家。風景は静かに流れていきます。

生活の足は自動車中心になりがちですが、たまには列車に乗って窓の外をゆっくりと眺めながら旅をするのもいいものです。

「さんてつ」に乗っていると、旅情に浸っている方をたまに見かけます。うらやましいなあ、と思います。というか、のんきだなあ、と思います。というか、よく穏やかにしてられるなあ、と思います。

というのも僕の心、「さんてつ」の中ではちっとも安穏になれないのです。

それはなぜか。

「一の渡駅」のせいです。

この駅、どうもおかしいんです。

周囲は山ばかりです。本当に山ばかりです。民家は全然見えません。「民家らしきモノ」さえ見当たりません。

ごく稀に、乗降する人がいますが、彼らはどこへ向かう気なのでしょうか? いったいどこからやって来たのでしょうか?

そもそも、この駅が宮古市のどの辺りに位置するのか僕は知りません。「崎山あたりかなあ」なんて思ってますが、自信も確信もありません。

だいたい、一の渡は地名なのでしょうか? 少なくとも僕は「一の渡に行く」という話を聞いたことがありません。「一の渡から来た」という人とも会ったことがありません。これまでの人生で「一の渡」と発音したことさえないかもしれません。

よく考えたら「二の渡」がないのも奇妙です。ひとつ渡って次「佐羽根」。二を渡る前に、羽が生えて飛んでいってしまったのでしょうか?

いちのわたりじん。

僕が知らないだけで、もしもそういう人種がいるとしたら、彼らはいまだに深い森の中で暮らし、細々と「崎山貝塚縄文の森ミュージアム」的な貝塚を作り続けているのかもしれません。そして小銭を稼いだら、「さんてつ」に乗って宮古駅まで行って、キャトルあたりでオシャレな貝殻なんかを買ったりするのかもしれません。

いちのわたりじん。

「もしかしたら仙人かな?」と思うこともあります。だったら筋斗雲に乗れるはず。釜石に「仙人峠」ってところがあるぐらいだから、宮古にもいるのかもしれません。いや待て、筋斗雲に乗れるならもうちょっと頑張って宮古駅まで行けよって話。

ところで、うっかり「一の渡駅」で降りてしまったと仮定してみましょう。

「さんてつ」はなにせ本数が少ないから、次の列車が来るまで、少なくとも1時間は待たなくちゃなりません。次の列車が来るまで、深い森の中でどうやって時間を潰したらいいんだろう? Wi-fiつながるかな? いや、そもそも携帯電話は使えるのかしら?

昼ならまだいいけれど、それがもし終電だったとしたら大変なことになりそうです。妖怪、山賊、ゾンビ……。いったい何が出て来るかわかりません。始発が来るまで「一の渡駅」生き延びようと思ったら、サーベルの一本ぐらい必要になるかもしれません。いや、鎧にカブト、盾のひとつもあった方がいいかもしれません。

男の子なら一度は憧れる騎士ごっこ。この際だから一度、一の渡駅でやってみようかしら?

もしもあなたが「さんてつ」の車両内で、騎士の格好をした重装備の男性を見つけたら、その人は間違いなく「気の狂ったパドマさん」です。

どうぞ全力で止めてあげてください。

よしだ・ぱどま。宮古市在住。1981年生まれ。貿易事務、無職などを経て、現在はフリーランスとして広告などを制作している。

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